千両箱盗難事件

◎一顧だにされなかった事件

 尾張家市ケ谷上屋敷で起きた千両箱盗難という耳目を引く事件ながら、なぜかこれまでの研究、他の小説で全く触れられていない。このため一般にもほとんど知られていないので「宗春躍如」における記述すべてが創作だと思われないかと筆者は危惧する。史料からこの事件の存在を示し、事件の結果が尾張家中に及ぼした影響を考察する。

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一枚岩ではなかった吉宗政権

◎綱吉仁政の名残り

 「宗春と吉宗が対立した」という視点に固執しているとディテールが見えてこない。そもそも和を以て貴しとなす厩戸王以来の伝統なのか独裁者というものは日本には現れなかった、と書くと批判があるかもしれないが、少なくとも宗春も吉宗も独裁者ではなかったようだ。吉宗は、現実をしっかりと見据えたバランス感覚のある将軍であり、向き不向きを見て使者を選択していたように思える。

 宗春代の尾張家(藩邸以外も含む)への使者を下の表にまとめた。

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太宰春台コネクション

太宰春台と宗春

◎奇を好む儒者

 太宰春台は荻生徂徠の門下の博覧強記の儒学者である。厳しく子弟の礼を求め、大名の子弟にも同様に謹厳であった。その説くところは明快至極。「今の世では金銀を手に入れる計をなすことが急務であり、それには商人のように売買することが一番近道である。領主が金を出して国の土産や貨物を全部買い取って他国で売るのが良い」と明らかに重商主義的な経済思想へ進展=転換している。商人の真似をするな、などとは言わないのだ。

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